献血

昼前に見覚えのない番号から着信が。いつもなら出ないのだけれど、なぜか電話に呼ばれているような気がして、誘われるように通話ボタンを押す。
電話は赤十字の血液センターからだった。近日行われる手術のために僕と同じ型の白血球が必要なのだという。幸い明日はバイトが21時からで、それまでの数時間は予定もないのでこの依頼を快諾した。
初めて献血に行ったのは高校生の時。幼い頃から両親の献血手帳に憧れを抱いていた僕にとって、献血は大人の世界へのステップの一つだった。盛岡の映画館通りにある献血ルームで受付のお姉さんが優しく応対してくれたのを今でも覚えている。
高三の冬にはこのルームで偶然クラスメートと出くわした。受験が目前に迫っているのに献血に来た後ろめたさと照れくささで僕らは曖昧な笑顔を見合わせた。結局二人とも受験に失敗して同じ予備校へ通うことになるのだが、これは献血のせいではない。と思う。
その浪人時代は予備校の寮にテレビがなかったため、大相撲中継目当てで献血ルームへ通っていた。次の人が待っているのに「あと一番だけ」なんてわがままを言って看護師さんを困らせたりもした。ごめんなさい。
最近の楽しみは地上二十階からの景色を眺めながらの読書。受付してから帰るまでの時間は、文庫本を一冊読むのにおあつらえ向きなのだ。
血液は保存がきかないそうで、今まで提供した血が実際どれくらい使われたのかはわからないが、献血し終えた後の晴れがましいような誇らしいようなあの気分だけでもその対価として十分だと思う。自分の血が知らない誰かの役に立ってるかもって想像するのも面白い。コーヒーやジュースは飲み放題だし、血液検査で健康状態もわかるしね。
さて、明日はどの本を読もうかな。