日記

バイト中、印象的なお客さんが二組。


午前中、小学校低学年ぐらいの女の子と幼稚園児と思しき男の子が来店した。
姉に手を引かれた弟くんはマーブルチョコをひとつ手に取りレジにやって来た。マーブルチョコを差し出す弟くんに後ろからお姉ちゃんが「袋いりませんっていいなさい」と声をかけた。しかし彼は口を噤んだままカウンター越しに僕をじっと見つめている。すると姉は両手で弟の頬をつねって「ほら、袋いりませんって!」
ようやく観念した弟くんが小さな声で袋いりませんと言い、握り締めていた百円玉を僕に渡すとお姉ちゃんは「ほらもう十時半だよ」と再び弟の手をとって店の外へ出て行った。
一人っ子の僕はこういうのに憧れるわけです。「H2」の比呂とひかりの幼い頃みたいな感じですね。一姫二太郎なんてよく言ったものです。


もう一人は中年の男性。
日も沈んだ頃、店に入ってくるや否や商品も持たずにレジの前へやってくると、おもむろにリュックから小さなアルバムを取り出した。何枚かの写真を指しながら、この人がこの二三日中に来店しなかったかと言う。見るとそこに写っているのは二十代前半と思われる女であった。察するに相当深刻そうな様子だったが、若い女性客は毎日何十人と来店するし、混雑時などは客の顔を見ないことも珍しくなく、残念ながら僕は彼の力になれそうにはなかった。収穫が得られず肩を落として店を出て行く男性の背中を見ながら僕は、ガルエージェンシーにでも依頼したらいいのに、と思った。